虹の発生過程について

何もなさず、何も感じずに生きられたらどんなにいいことだろう?

アメリカ大陸という、巨大な人工物

 アメリカ大陸、と人が言うとき、僕はそれが何と本来存在したものを破壊し、人工的に造られ、成立したものであるか思いを寄せずにはいない。
 アメリカなんて名前自体探検家アメリゴ・ヴェスプッチから名付けられたものだ。しかもこの言葉自体、初めは南側の大陸のみを指す語だったのである。
 先住民にしてみれば、そもそもアメリカ大陸という概念があったかどうかすら疑わしい。そりゃ、アステカのナワトル語で世界のことをcemanahuacと呼ぶけど、だからといってアメリカ大陸を指してそんな風に呼ぶ人はいないだろう。インカ帝国の各地域区分を知れ。彼らは南北に延びる広大な領土を四つに分けはしたが、大陸という概念もなかったし、ましてそこが一つの名前で呼ばれる場所だなんて考えもしなかったはずなのだ。


「新大陸」の「発見」という使い古された表現よ。「発見」と言っても、既にそこに住んでいる人がいたではないか。平然と用いる人間の何と多いことか。もうこの時点から、アメリカ大陸のことを一面的な視点でしか見ないようにしよう、という意思の表明でしかないよ。
 何より最初はアジアの一部であると勘違いしていて、その延長線上で先住民をインディオ(インド人)と呼んだ。ここからして相手の独自性を認める発想がない。


 スペイン人が征服した時、先住民の人口を一番減らした原因は戦争ではない。病原菌だ。征服者がもたらした天然痘などの病気に対して何の免疫も持たない先住民は病死していく他なかった(逆に大陸に元から存在した梅毒が旧大陸へ持ち帰られて被害を出すのだが)。
 そして先住民がいなくなった場所に次々と征服者が定住し、スペインの地名が付けられ、建物も、人種も、言語も、すっかりヨーロッパの物に置き換わってしまった。先住民とヨーロッパ人の混血が濃く進んだメキシコはまだいい方で、合衆国は先住民の数をなるべく減らそうとしたし、しかも白人とはかけ離れた場所に隔離しようとしたから尚更ひどさが極まっている。
 しかもスペイン人とか、ポルトガル人だけではなく、さらにアフリカからも黒人奴隷が導入されたのだ。今だって移民という形で、絶え間なくよそ者が流入し続けている。


 それを考えた時、アメリカって多分世界史上一番陰惨な過程を経た場所じゃないのか…!? とすら思う。本来そこにも何千年もの時間をかけて育った文明があったのである。しかもそれはユーラシアの諸文明に比べても決して劣るものではない。だが何千年も続く歴史の最後の数百年で、その文明は急に終焉を告げさせられたのだ。
 アメリカ先住民という言葉自体が圧倒的な区別意識に基づいている。ユーラシア先住民だなんて言うわけないものな。彼らの歴史は西洋史観の前に遮られて中東のイスラーム文明ともども、まともに陽の目を見ることはなかったのである。
 今だって先住民たちの言語は生きているし、彼らの宗教はキリスト教の影響を受けつつも信仰されている。


 恥じるべきは、オカルトとか超古代といった単語でその文明の真実とやらを面白おかしく語る連中である。
 我々日本人がこの──人種的にも近縁な──地域の歴史や文物を長い間重要なものとして見てこなかったのは、なるほど近代的思考、価値観の弊害。
 でも多分、あまりに人類の歴史の針をあまりに進めた果ての、世界の一つの姿なのかもしれない、とは思う。この民族的にも宗教的にも混合の進んだ文化の多様性を調べるとだね。
 無論、それを素晴らしいとか誉める気持ちは全くないけれど。