虹の発生過程について

何もなさず、何も感じずに生きられたらどんなにいいことだろう?

大災厄

 2040年代から2070年代にかけて世界規模、文明の崩壊の過程で起こった超常現象を総称して呼ぶ名前。
 世界史において『古代末期』と言う名前で知られる20世紀末以降は人間のあらゆる叡智が最善の状態に達した時代とされる。しかしこの大災厄がその技術を全て破壊してしまった。以後、人類は長い暗黒の中をさまようこととなる。
 大災厄によって地球上に存在した人間による建造物、文書が多く消えさった事実はしばしば指摘されるが、大災厄そのものの記録は極めて少ない。当時の記録のほとんどがデジタル媒体を使用したものだったため、デジタル技術が断絶した後世には伝えられなかった、という事態がもっとも大きい。
 紙や金属板、石を用いたためかろうじて残った記録によれば数百万人単位の失踪や都市の荒野への変貌、といった現象が報告されている。
 ノートを使用したある古代人の日記では、テレビで人が消え、あるいは知性を失った大衆が街を徘徊するというニュースが流れなかった日は一日もないという。また、約十年の間に数十億人が消滅した、とも。

 記録そのものが限られているため、何年何月に何が起こったか、知ることができるものはごくわずかしかない。
 2084年、大災厄に対処するためと称して地球連合政府が樹立されるが、その実態は虚名に均しく、2093年には戦争状態に突入した。とはいえ人間の数が激減した世界で起こった大戦争など、むしろ大災厄その物に比べればまことささいなものであったろう。だが人間の反目が歴史の終焉を決定づけた。この戦争に関しても、その後の経過がよくわからない。
 世界経済が破綻し、離れた地域同士の交通も途絶えた。科学技術も散佚したために文明水準は産業革命以前に逆戻り。
 また2095~2097年には数か国の政府が機能停止を告げた、との事件も伝わる。
 どの地域も、22世紀後半までの詳しい歴史がよく分からなくなっている。古代末期に存在した国家は全て解体した。今存在するいくつかの国は、大災厄以前から続く歴史を誇るが、牽強付会の域を出るものではない。