アラブ人名における子称・父称
アラブ人の間では「部族」(qabīla)という概念がイスラーム以前から現代に至るまで重要な言葉。自分がどの部族の血を引いているか、ということが社会での地位にも関わってくる。
血筋が重要だということは、すなわち系図が大きな意味を持ってくることに。
アラブ人には伝統的に苗字に当たるものはなく、基本、親の名前が本人の名前の後に続く。
たとえば、イスラームの預言者ムハンマドはより正式には、
ムハンマド・イブン・アブドゥッラー(Muhammad ibn Abdullāh)
という名前。「イブン」(ibn)は子を意味する。つまり、「アブドゥッラーの子、ムハンマド」という意味になる。ちなみに「アブドゥッラー」は「神の僕」という意味で、ムスリム(イスラーム教徒)の間では同じく人気のある名前。
「イブン」が息子であれば、その女性形は「ビント」(bint)。預言者の妻ハディージャ・ビント・フワイリド(Khadīja bint Khwailid)のようにだ。
一方で父は「アブー」(abū)。この名前を持っている最も有名な人物は預言者亡き後のムスリムを統率した第二代正統カリフのアブー・バクル(Abū bakr、バクルの父)であろう。この名前も非常に一般化したそれ自体で固定の名前になっている。ISの指導者であったアブー・バクル・バグダーディー(Abū bakr Baghdādī)などは記憶に新しい。
「某の父」は敬意を表し、本名を避けるために使われることもあるらしく、たとえばパレスチナのアッバース議長はその名以外にアブー・マーゼン(Abū Māzen)とも呼ばれている。